読者の皆さまへ
戦後日本の宗教行政は、占領期の政策的影響を受け、宗教活動の自由を広く保障する仕組みを整えてきました。多様な信仰が共存する土壌が育まれる一方で、宗教団体と社会との関わりが十分に検証されないまま推移してきた側面も指摘されています。エホバの証人の日本における拡大は、このような環境の中で形成された現象の一つといえます。
1970年代以降、同団体は積極的な布教活動を行い、信者数を拡大してきました。しかし、その内部規範や信者の生活実態が社会に広く共有される機会は限られていました。輸血拒否をめぐる二つの裁判が一時的に注目を集めたものの、宗教活動がもたらす生活上の課題や影響について社会的議論が十分に深まったとは言いがたい状況でした。
変化が見え始めたのは、2022年に厚生労働省が「宗教虐待Q&A」を公表して以降です。これを契機として、宗教2世の養育環境や児童福祉の観点からの再評価が進み、エホバの証人を含む宗教団体に関する報道も増えました。しかし、報道は時間とともに散逸し、必要とする人に届きにくくなるという構造的課題が残されています。情報が生まれながらも積み重ならず、風化の流れにのみ込まれていく現状は、決して小さくない問題だと感じています。
本ウェブサイトの運営に携わる私たちは、いずれも過去にエホバの証人として暮らし、その後に離脱した経験を持っています。離脱の過程では、教団内部で疑問を語り合うことが難しく、外部の情報源も限られていたため、自身の経験をどのように位置付け、どのように理解すべきかを模索し続けました。
その中で大きな助けとなったのが、ある医師が運営されていた「エホバの証人情報センター」です。教理や団体の実態を丁寧に整理した情報は、多くの離脱者にとって自分の考えを言語化する手がかりとなりました。専門知識の習得から当時の技術的制約を乗り越えた情報発信まで、並々ならぬ労力が注がれていたことは想像に難くありません。しかし同サイトは既に更新を終えており、現在はアーカイブが残るのみとなっています。
現代においても、エホバの証人に関する正確で整理された情報を求める声は確かに存在します。しかし、信頼性のある情報を継続して入手できる場は限られており、過去と同様の困難を抱える方が今もいる可能性があります。
こうした状況を踏まえ、2025年、私たちは本ウェブサイトを立ち上げました。目的は特定の団体を批判することではありません。宗教と社会、宗教と個人のあいだで起きうる課題について、客観的で信頼できる情報にアクセスしやすい環境を整え、たどり着きにくかった知識への道筋を少しでも広げたいと考えています。
情報が時間に埋もれず、必要とする誰かの手に確かに届くように。
その願いを胸に、このウェブサイトを運営してまいります。
筆者1 黒田官介 元・エホバの証人二世。40代男性。
1990年代にバプテスマを受けて中学〜高校時代をエホバの証人の信者として過ごしました(補助開拓奉仕、証言で学校行事などに参加しないなどを経験)。その後、フェードアウト1しました。今は信者ではありません。
エホバの証人と言えばムチが話題になりますが、私個人としてはムチを受けてはいません。しかし、周囲ではムチは当然のことであり、ムチを目撃したこともあれば、されている声や音を聞いたこともあります。教団内でムチは当たり前の事だったと記憶していますし、今でも現役信者の親と私の幼馴染の信者について話してみると「彼は(彼女は)ムチで立派に育った」等とムチの効果を未だに擁護します。
また、大学進学も話題になります。私は仲間信者の圧力を受けたものの大学進学出来ました。私の住んでいた地域の長老(地域責任者)は比較的穏当な方だったようです。現在になって他の二世信者と知り合ってその事情を見聞きするにつれて、他の地域のひどい実態があると知るようになりました234。
上記の通り、私の育った環境が穏当だったことから、私は親に対しても当時お世話になった信者達(長老、他の信者)に対しても何ら恨みの気持ちを持っておらず、むしろ感謝の気持ちを持っています。これは通常の親子や人間関係のようなもので、エホバの証人だからといって人間としての気持ちが失われるものではありません。
私は既に教団から離れていますが私の親は現在も信者であり、一世信者の信教の自由は最大に守られるべきだと考えています。一方で、一世信者達の信教の自由のために、二世信者等の人権が害されて良いわけではありません。
例えば、私が「フェードアウト」という脱会手法を選択したのは、「忌避」という強力な制裁教理があるためでした。忌避とは、脱会者を集団で無視する村八分です。信者同士の人間関係のみならず親子関係であっても完全に断つ制裁教理で極めて非人間的な制裁です5。
親子以外の信者関係が失われるのは仕方ないとしても、親子で忌避されるのは困るため数年をかけてフェードアウトしましたが、フェードアウトに伴い様々な精神的苦痛を経験しました(二世信者にありがちな鬱(うつ)も経験しました)。これについては、私という二世信者の信教の自由が奪われた結果であると振り返っています。
苛烈な幹部信者や親のいる二世信者の中には、さらにひどい境遇に置かれた方が数多くいて、「人権侵害」と言い切っても過言ではないほどです。そのため、私のように親や他の信者に対して感謝をしているような二世信者は多くないかもしれませんが、私のような元信者から見ても当時から継続している教団の教理運用は異様に見え、世間から乖離しています。
このような乖離がなぜ生じるのか、一般の人からは分かりにくいと思います。そこでこのサイトは、異様に見える教団の背景にあることや内部事情を客観的な情報に基づいて解説することにより、広く一般に知っていただきたいと思い作成しました。
著作権について
筆者は本サイトの著作権を放棄します。また、著作人格権は行使しません。ただし、本サイトの趣旨に反しない利用に限るものとします(特に、教団教理に肯定的な切り抜きや、現役信者の信教の自由を否定するような攻撃等はおやめください)。クレジット表記が必要な場合には「エホバの証人を分かりやすく」とお書きください。
Wikipediaについて
本サイトを始めた理由のもう一つはWikipediaの編集合戦に疲れたというのもあります。Wikipediaには現役信者と思しき人物が多数おられ、学術的な根拠を背景にきちんとした書き込みをしてもそうした編集者により取り消されることがあります。結果、Wikipediaには教団のプロパガンダしか書かれておらず教団を理解するのに十分ではありません。せっかく書いても消されてしまうWikipediaよりも、自己のサイトで情報提供するのが良いと考えました。
お問い合わせがあれば、以下にお書きください。
- 幽霊信者化する脱会手法、「排斥」「断絶」ではない脱会であり、忌避を伴わないので比較的マシな脱会なのです
- 『解毒 エホバの証人の洗脳から脱出したある女性の手記』角川書店、坂根真実、2016年。ISBN978-4-04-103709-6。
- “ムチを打てない人は「子どもをサタンから守れない人」 “エホバの証人”元二世が明かす異常な“懲らしめ”の実態”. 文春オンライン
- 信者家族「たたかれた子」と親の間の埋まらない溝「信仰心による体罰」責任を負うのは親だけか,東洋経済オンライン,2022年
- ちなみに、村八分は違法であるとする判決があります