エホバの証人の信者による「輸血拒否」をめぐる医療訴訟、2026年に各地で相次ぐ

最終更新:2026年8月28日  画像は生成AIで作成したものです。

2026年、宗教上の理由から輸血を受け入れない「エホバの証人」の信者が、大学病院や県立病院で手術・検査などを受けられなかったとして、医療機関の運営主体を相手に損害賠償などを求める訴訟が日本各地で起こされています。

2026年8月28日現在、大手メディアおよび地方紙の報道で確認できる事件は、滋賀医科大学、名古屋市立大学、熊本大学、沖縄県を被告とする4件です。原告は計13人で、請求額は一人当たり約330万円程度です。

以下では、事件ごとに、提訴からその後の裁判・報道までを時系列で整理します。

なお、いずれの訴訟も係争中です。裁判所が「診療拒否は違法だった」「宗教差別があった」と認定したものではありません。訴状や報道で紹介された原告側の主張は、「原告側は主張しています」「訴状によると」などと区別して記載します。


1 滋賀医科大学事件

2026年1月23日 女性信者が提訴

報道によると、エホバの証人の信者である女性は2026年1月23日、滋賀医科大学を相手に330万円の損害賠償を求め、大津地裁に提訴しました。

問題となったのは白内障の手術です。

原告側は、輸血を受け入れない意思を伝えたことを理由に、滋賀医科大学医学部附属病院で手術を受けられなかったと主張しています。

報道
共同通信配信「宗教で手術拒否、賠償請求 『エホバの証人』大津地裁」

関連資料
滋賀医科大学医学部附属病院「宗教的理由による輸血拒否への対応について」

厚生労働省「宗教的輸血拒否に関するガイドライン等」

2026年4月28日 第1回口頭弁論

2026年4月28日、大津地裁で第1回口頭弁論が開かれました。

共同通信によると、女性は白内障手術のため2024年1月に同病院を受診しました。訴状では、女性が宗教上の理由から輸血を受け入れない旨の書面を提示したところ、手術を受けられなかったとしています。

女性はその後、別の病院で両眼の手術を受け、輸血は行われなかったとされています。

原告側は、信仰を理由とする不当な差別だったと主張しています。大学側は第1回口頭弁論で請求棄却を求めました。

報道
共同通信配信「宗教で手術拒否、賠償請求 『エホバの証人』大津地裁」

関連資料
滋賀医科大学医学部附属病院「宗教的理由による輸血拒否への対応について」

日本輸血・細胞治療学会「宗教的輸血拒否に関する指針」


2 名古屋市立大学事件

2026年1月28日 男性信者が提訴

エホバの証人の信者である男性が2026年1月28日付で、名古屋市立大学に対して330万円の慰謝料を求め、名古屋地裁に提訴しました。

共同通信によると、男性は2024年8月、前立腺がんの疑いで名古屋市立大学医学部附属東部医療センターを受診しました。

訴状によると、男性は輸血を受け入れない意思を担当医に伝えました。当初はロボットを用いた腹腔鏡手術を予定していましたが、その後、病院側から、無輸血を条件とした手術はできない旨を伝えられたとしています。

男性は別の医療機関で手術を受けたとされています。

原告側は、医学的には宗教上の信念に沿った治療が可能だったとして、信教の自由、自己決定権、医療を受ける権利などを侵害されたと主張しています。

報道
共同通信配信「手術拒否は『差別』と信者が提訴 『エホバの証人』名古屋で」

関連資料
名古屋市立大学医学部附属東部医療センター「宗教上の理由による輸血拒否への対応」

名古屋市立大学「附属病院の診療方針・患者の権利」

日本麻酔科学会「周術期の輸血拒否患者への対応に関する資料」


3 熊本大学事件

2026年3月20日 信者6人が提訴

熊本県内のエホバの証人の信者である男女6人が2026年3月20日付で、熊本大学を相手取り、計1980万円の損害賠償などを求めて熊本地裁に提訴しました。

熊本日日新聞や共同通信の報道によると、原告6人は2021年以降、熊本大学病院で手術や組織検査などを受ける際に輸血同意書への署名を求められたとしています。

原告らは宗教上の理由から署名せず、その後、熊本大学病院で治療を継続できなくなったと主張しています。一部の原告は福岡県内の別の病院で診療や手術を受けたとされています。

原告側は、宗教を理由とした不当な扱いであり、法の下の平等などに反すると主張しています。

熊本大学は報道機関に対し、係争中のためコメントを差し控えるとしています。

報道
熊本日日新聞「熊本大病院による治療拒否は『差別』 『エホバの証人』の信者6人が損害賠償求め大学を提訴」

共同通信配信「教義で治療拒み差別と熊本大提訴 輸血方針でエホバの証人信者6人」

関連資料
熊本大学病院「宗教的理由による輸血拒否への対応について」

熊本大学病院「患者の権利と責務」

日本輸血・細胞治療学会「輸血拒否患者への対応に関する指針・資料」

2026年6月17日 第1回口頭弁論

2026年6月17日、熊本地裁で第1回口頭弁論が開かれました。

熊本日日新聞によると、原告側は法廷で、宗教上の信念を理由として不利な扱いを受けたとの趣旨の意見を述べました。

この訴訟では、原告6人が熊本大学に対し、1人330万円、計1980万円の損害賠償などを求めています。

報道
熊本日日新聞「治療拒否『不利な扱い』 『エホバの証人』の信者が意見陳述」

関連資料
熊本地方裁判所


4 沖縄県立病院事件

2026年5月18日 信者5人が沖縄県を提訴

エホバの証人の信者5人は2026年5月18日付で、沖縄県を相手として那覇地裁に提訴しました。

対象となっているのは、沖縄県立中部病院と沖縄県立八重山病院です。

請求額は5人合わせて約1674万円です。

報道によると、原告5人は2023年以降、両病院で手術や検査などを受けようとした際に輸血同意書への署名を求められ、宗教上の理由から署名しなかったため、その後の診療を受けられなくなったと主張しています。

原告側は、輸血への同意を治療の条件としたことが信教の自由や法の下の平等などに反すると主張し、損害賠償に加えて、病院側の輸血に関する方針の無効確認なども求めています。

報道
琉球新報「エホバの証人信者5人が沖縄県を提訴『診療拒否は違憲』 1674万円の損害賠償など求め」

関連資料
沖縄県立中部病院

沖縄県立八重山病院「当院の輸血方針について」

沖縄県病院事業局

2026年8月27日 訴訟が報道される

琉球新報は2026年8月27日、この訴訟について報じました。

中部病院と八重山病院は琉球新報の取材に対し、「訴状の内容を精査しているところで、現時点ではコメントできない」としています。

報道
琉球新報「エホバの証人信者5人が沖縄県を提訴『診療拒否は違憲』 1674万円の損害賠償など求め」

関連資料
沖縄県立八重山病院「当院の輸血方針について」

沖縄県立中部病院


現在確認されている訴訟

2026年8月28日現在、報道で確認できる訴訟は次のとおりです。

事件被告・医療機関原告提訴日一人当たり請求額
滋賀医科大学事件滋賀医科大学1人2026年1月23日330万円
名古屋市立大学事件名古屋市立大学1人2026年1月28日330万円
熊本大学事件熊本大学6人2026年3月20日330万円
沖縄県立病院事件沖縄県5人2026年5月18日約335万円

各事件で事情は異なりますが、共通しているのは、2つあります。一つは請求額です。2つ目は原告側が、宗教上の理由から輸血を受けない意思を示した結果、希望する医療を受けられなかった、または治療を継続できなくなったと主張している点です。

「輸血を拒否する権利」と「無輸血で治療を受ける権利」

宗教上の輸血拒否については、2000年2月29日の最高裁判決が重要な判例として知られています。最高裁は、宗教上の信念から輸血を拒否する患者について、その意思決定は人格権の一内容として尊重されるべきとの判断を示しました。

ただし、この判決が直接認めたのは、患者が十分な説明を受けた上で治療方法を選択する自己決定の重要性です。

今回の一連の訴訟では、それに加えて、「患者が絶対に輸血を受けないことを条件として治療を希望した場合、医療機関にはその条件で治療を提供する義務があるのか」という問題が争われる可能性があります。

多くの医療機関では、可能な限り無輸血治療を行う一方、生命維持のために必要と判断すれば輸血を行う「相対的無輸血」の方針を採用しています。

そのため、一連の裁判は、患者の信教の自由や自己決定権と、医療機関側の医療安全上の判断や診療方針をどのように調整するのかという問題として注目されます。

関連資料
日本輸血・細胞治療学会「宗教的輸血拒否に関する指針」

日本医師会「医の倫理の基礎知識」

厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」

本ページについて

本ページは、エホバの証人と輸血拒否をめぐる医療訴訟について、事件ごとの提訴日、口頭弁論、報道、医療機関の公表資料などを時系列で記録することを目的としています。

新たな提訴、口頭弁論、裁判所の判断、病院側の主張、判決などが報道された場合には、該当する事件の時系列に追記します。

また、訴訟当事者の主張と裁判所によって認定された事実を区別し、係争中の事件について一方当事者の主張を確定した事実として扱わないよう留意します。

※本ページの情報は2026年8月28日時点です。